谷口智彦さんが翻訳してくれたオランダ専門家のコメント(世耕弘成)

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以下、BBCで取り上げられたオランダの専門家のコメントを谷口智彦さんが翻訳してくれたものです。
谷口さん翻訳ありがとうございます。
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以下やや長文

 繰り返し紹介しているこの番組。詰問調で訊くBBCに答えてオランダの専門家が述べた内容が、きわめてバランスのとれたものだったから、以下に翻訳し回覧したい。

 サイトのリンクは、放送日2月19日を起点に28日間有効とのこと。放送は3分50秒~8分13秒がyours truly(たにぐち)。続く8分14秒~12分53秒までが同専門家(所属、氏名は後述)との一問一答。ここを以下翻訳する。

Q: 船内の隔離は失敗していたのではないか。乗客を下船させる判断は正しかったのか。

A: 船内での隔離の目的は、ウイルスを水際で阻止することだった。これは成功を収めたのであって、その限り、船内隔離措置もうまくいったのだといえる。

 次に問うべきは、それでは乗客にとって隔離はよいことだったのか、ベストだったのか、だ。船内で、感染が広まった事実が事実としてあるのだから、非感染者を船内に留め置いたことが人道上正しかったのか、その人たちを感染のリスクに曝したのがよかったのか、という問いは残る。

Q: 乗客が下船しているいま、船内感染がよかったかどうか問うことは、今やどっちでもいいのではないか。

A: 下船し一般社会に入る人々が感染していた、あるいは他者に移してしまう状態だった、という話なら、これは振り返って船内隔離がうまくいっていなかったのだということになる。そういう話なのかどうか、データがない。下船した人から感染が広まったとは聞いていない。

 下船者から感染が起きてしまう可能性について、担当者は十分弁えていたはず。だからかなりの期間、船内に隔離した。そしていま下船させたということは、その下船者からまたウイルスが広まるリスクはきわめて低いと解釈されたということなのだろう。

Q: 日本当局には、チョイスはあったのか。

A: チョイスは、常にある。あるけれども、それはいつも、2つの相反する事柄の間に、どうバランスをとるかになる。

 一方では、ウイルスを水際で抑え込みたい。また他方では、船内にいる人で、さもなければ感染リスクになんか曝されなかったはずの人が、感染してしまうということがないようにしたい。

 と、こういう問題の困難さ、選択というものを、日本当局は必ず考えていただろうと思う。

Q: 日本はわかっていた、ということか。

A: そうです。批判することは、いつでも簡単です。一方について、ひとつ選択すると、他方についても、ある選択をしたことになってしまう。そのことについて批判することは、容易なんです。

 しかしすべての努力は、ウイルスが国内に入らないようにすること、新しい、人間集団に入り、そこから、中国の場合そうだったように、コントロールできない形で広まってしまうことだけは、避けたい、と。そう考えるなら、船内に乗客を留めておくといった強引な手法は必要になる。正当化もされる。水際で食い止めようとするなら、それしか方法はないから。

 向こうひと月かふた月、すべての国が、このようなやり方で成功するならば、これがパンデミックにならずに済むという期待はまだある。

Q: 船内では容易に広まったようだ。伝染しやすさについて言えることは?

A: なにも言えることはない。伝染のしやすさは、ひとつにはウイルスの特質による。これは、一定。もうひとつには、その人間集団がどんなグループかによる。それぞれの人々の近接度とか、接触の頻度などで変わる。船内の状況は、町や村の状況とまったく違う。つまり船内の様子がこうだからといって、それが市中に起きうる状態の反映だということにはならない。

Q: 致死率2.6%と低いのは、せめてもの慰めか?

A: もしパンデミックになったら、その率でも、悲惨だ。100年前のスペイン風邪よりひどいということになる。

 しかしウイルスの宿主でありながら陽性判定を受けていない人、あるいは症状がないか、あってもきわめて軽いという人も相当数に上るだろうから、感染者の総数は、知られているよりかなり多いはず。それを分母として弾いた致死率は、もっと低くなる。

 でも致死率が1%だろうが、0.5%だろうが、パンデミックになったら、それは非常に深刻な事態だ。 (終わり)

――とこのように、同専門家はダイヤモンドプリンセスで日本がとった行為を極めて常識的で、正しい方法だったこと。選択はこちらを立てればあちらが立たずという類、きわめて難しいものだったはずで、安易に批判することはできないということ。船内の特殊な環境を市中の状況と同一視すべきでないということ。ともかく日本は水際で食い止めるため、努力を傾注したのであって、他国も同様にするならば、あとひと月、ふた月で、パンデミックにならず抑え込むことは可能なのだということを、直接に、さもなければ間接に、言っているわけだ。

 以上に引用してきたオランダの専門家は、ユトレヒト大学感染症学部(疫学部)のマーク・ボントン教授(Marc Bonten, Department of Epidemiology)